洗濯物干し場、と言えばバルコニーやベランダを思いつくのではないでしょうか。さらに、バルコニーには通常のバルコニーとインナーバルコニーがあります。

インナーバルコニーは、その名のとおり建物の内側につくるバルコニーのことです。その特徴から、バルコニー(外壁から張り出してつくる)と違うメリットとデメリットを持っています。

本稿では、インナーバルコニーの特徴と費用について解説します。新築の洗濯物干し場をバルコニーにするかインナーバルコニーにするか迷っている方は、ぜひ最後までご覧ください。

インナーバルコニーとは、どんな間取り?

さっそく、インナーバルコニーの特徴から解説します。バルコニーとベランダの違いもご紹介しますので、ご自宅の物干し場にはどれが合っていそうか、ご検討される際の参考にしてください。

インナーバルコニーの特徴

バルコニーとは、2階以上の外壁から屋外に張り出してつくった「屋根のない手すり付きの露台」のことです。2階以上の高所に張り出していること、屋根がないこと、手すりがあることがポイントです。

参考:レファレンス共同データベース「バルコニーとテラスの違いは何か」

一方、インナーバルコニーは「建物の内側に設けるバルコニー」を指し、バルコニーと同じく2階以上につくられます。(1階にある場合は、ピロティーやインナーガレージなど、違った用途と呼び方になります)

建物の内側に設けるインナーバルコニーは、通常のバルコニーのようにボコッと出っ張りません。ですから、家の外観がスッキリするだけでなく、バルコニーにない以下の特徴も備わります。

  • 屋根がある
  • 真下に部屋がある

また、インナーバルコニーはバルコニーより奥行が取りやすく、広めにつくることも可能です。さらに、屋根があるおかげで半屋内のようになりますので、バルコニーにはない使い方(後述)ができます。

なお、真下に部屋があって屋根がないバルコニーは「ルーフバルコニー」と呼ばれます。

インナーバルコニーとベランダの違い

つづいて、インナーバルコニーとベランダの違いをご紹介しましょう。

まず、バルコニーとベランダの違いですが、建築基準法および同法施行令ではこのふたつの定義や区分方法を明文化していません。(「ベランダ」の記載はなく、すべて「バルコニー」となっています)

しかし、一般的にはバルコニーに屋根があるものをベランダと解釈しています。既出のレファレンス共同データベースによると「家屋に沿って張り出した、屋根のある縁」のことをベランダと呼ぶようで、日本家屋の縁側もベランダと見なせるそうです。

では、ベランダとインナーバルコニーは何が違うのでしょうか ―― 。ベランダとインナーバルコニーは、どちらも「屋根がある屋外空間」ですが、以下の差があります。

  • ベランダ:外壁から張り出す形でつくられ、設置階数の限定なし
  • インナーバルコニー:外壁より内側につくられ、一般的に2階以上につくられる

とは言え、建築業界の人間でも「ベランダ、バルコニー、インナーバルコニー」の違いをちゃんと説明できる方は少ないでしょう。法令等で明確に定義されていませんので、業界の共通認識がないのです。

テラスやデッキ、ポーチ、ピロティー、縁側なども含めるとさらに厄介です。何となく使い分けている方が少なくないでしょう。

ですから、建築会社に間取りの要望を示す際は「インナーバルコニーがいい」と言葉で伝えるのではなく、写真等を見せて伝えたほうがよいでしょう。そのほうが、建築主さまと設計担当者の間で思い違いがなくなります。

知っておきたいインナーバルコニーのデメリット

さて、インナーバルコニーに短所はないのでしょうか。間取りをつくる前に知っておきたい短所をふたつ紹介しましょう。

延床面積に算入される可能性が高い

敷地面積に対する建物の床面積の割合(建ぺい率・容積率)は、法令で上限が規定されています。上限を超える床面積の家は、建てられません。

インナーバルコニーを広めに取ると、この限りある「床面積」をたくさん使ってしまいます。その結果、他のお部屋にしわ寄せがいきます。

参考:建築基準法 第52条「容積率」

参考:建築基準法 第53条「建ぺい率」

ところで、建ぺい率や容積率を計算する際、床面積から除外できるものがあるのをご存じでしょうか。その代表的なものがバルコニーで「開放性の高いバルコニー」は床面積を計算する際に不算入扱いになるのです。

たとえば、屋根のないバルコニーの「外壁面からの出幅が2m以下の部分」は、延床面積に含めなくてよいとされています。屋根のあるバルコニー(ベランダ)も、以下の基準を満たす場合、奥行2mまでは床面積から除外できることになっています。

  • 手すり上部の高さが1.1m以上、かつ天井高さの1/2以上ある
  • 隣地境界線との空きが自治体ごとに定められた距離以上ある

ところが、壁や屋根のあるインナーバルコニーは、開放性が阻害され屋内的な用途と見なされます。ですから、原則的に床面積全体が延床面積に算入されるのです。

インナーバルコニーの面積は、他の間取りとのバランスを考えて決める必要があります。

お部屋に日光が入りづらくなる

インナーバルコニーには、屋根があります。ですから、インナーバルコニーの奥行が深い場合、インナーバルコニーに隣接する部屋は日光が入りにくくなります。

インナーバルコニーと隣接する部屋は、暗くならないように採光の工夫が必要になるでしょう。トップライト(天窓)を設ける等の対応策をご検討ください。

余談ですが、採光は窓の位置が高いほど有利になります。建築基準法では、トップライトは一般的な高さにある側窓の3倍の採光効果があると見なされます。

トップライトより雨仕舞いがよい(雨漏りしにくい)ハイサイドライト(高窓)も、採光に有効です。

インナーバルコニーならではのメリット

つづいて、通常のバルコニーにはない、インナーバルコニーの利点をご紹介しましょう。

外なのに屋根がある

インナーバルコニーには屋根がありますので、洗濯物干しの際に天候の急変を心配しなくてよくなります。台風のような強い風が吹かなければ、濡れる心配が少ないので、安心して外出できます。

屋根があれば紫外線対策にもなります。日焼けがきになる洋服も、気兼ねなく干せます。他にも、通常のバルコニーではできない以下のような使い方ができますよ。

  • アウトドアリビングやアウトドアダイニングとして使う
  • 子どもの遊び場として使う

外で過ごしやすい季節は、インナーバルコニーに椅子やテーブルを置いて、ゆったり過ごすといいでしょう。キッチンで調理して食事をインナーバルコニーでとると、ちょっとした非日常を味わうこともできます。

屋根があるインナーバルコニーは、多少の雨なら平気で遊べますので、子どもの遊び場に適しています。車や日焼けの心配も少ないですので、ビニールプール遊びをされる方が少なくありません。

プライベート性が高い

インナーバルコニーは屋根や一部に壁がありますので、室内のような屋外のような、中立的な空間になります。目かくしフェンス等を活用すれば、プライベート性を確保しながら、自然の光や風を感じて過ごすことができますよ。

椅子やテーブルを設置すれば、アウトドアリビングとして使うこともできます。雨の日に読書を楽しんだり、夜空を眺めながらお酒を飲んだり、くつろぎ空間として活躍してくれるでしょう。

ニオイに注意すれば、バーベキューもできます。ぜひ、水栓やコンセントの設置もご検討ください。

  • 水栓 ⇒ 掃除のときに便利、子どものビニールプールに水をはれる
  • コンセント ⇒ ホットプレート等の家電が使える

なお、インナーバルコニーを「家族みんなで使うパブリックスペース」にするなら、2階の廊下やホールから出入りできるようにしたいところです。

寝室や子ども部屋から出入りする動線は、インナーバルコニーを共有しづらくなってしまいます。

インナーバルコニーの初期費用・維持費用

インナーバルコニーの建築費は、一般的なバルコニーより高くなります。なぜなら、屋根を支える柱や梁が必要になり、かつ通常のバルコニーより広めにつくられる傾向があるからです。

また、インナーバルコニーはメンテナンス費用や固定資産税もやや高くなりますので、ご留意ください。

床防水の定期メンテナンスが必要

インナーバルコニーの真下は、通常の部屋です。ですから、雨漏りが起きてしまうと、真下のお部屋の天井や壁の中に雨水が浸入してしまい、以下の不具合につながる恐れがあります。

  • クロス(壁紙)が剥がれ出す
  • カビが繁殖する
  • 木材腐朽菌やシロアリの食害が発生する

これを防ぐには、屋根を過信せず、定期的なメンテナンスを実施することが大切です。建築会社とご相談のうえ、適切な時期に以下の確認をしてもらいましょう。

  • 防水層に異常はないか
  • 排水口は詰まっていないか
  • 笠木から雨水が浸入していないか
  • 手すり壁のコーキングは切れていないか

新築の場合は、構造の防水に対する瑕疵(かし)保険が付きます (引き渡しから10年間)。バルコニーを防水塗装で仕上げた場合は、その保証も付きます (最長10年)。引き渡しの際、必ず付保証明書や保証書をご確認ください。

固定資産税の取り扱い

原則的に、固定資産税の評価に用いる床面積は、登記簿の床面積と一致します。ですから、固定資産税は登記上の床面積に応じて金額が上がっていきます。

屋根のないバルコニーは、登記の床面積に参入されません。ですから、固定資産税の算出では以下の扱いになります。

  • 下部全体または一部に居室等がある場合は全体を陸屋根と考え、各部分別で評点付設
  • 下部に居室等がない場合は、その他工事の「バルコニー」として評点付設

参考:総務省「木造家屋再建築費評点基準表」

一方、インナーバルコニーは、建築基準法上の延床面積と同様に登記上の床面積に算入されるケース(以下参照)が多く、固定資産税の評価額が上がります。

  • 天井がある
  • 天井高が1.5m以上ある
  • 3方向以上、壁やガラスなどで囲まれている

上述の条件に当てはまるインナーバルコニーは、登記簿面積に算入されるとお考えください。

【まとめ】インナーバルコニーにするなら

洗濯物干し場の選択肢は「バルコニー、インナーバルコニー、ベランダ」などさまざまなものがあります。昨今、バルコニーをなくしてランドリールームをつくるご家庭も増えています。

選択肢が多いと、間取りを考える際に迷います。それぞれ一長一短がありますので、家の立地条件やご家庭の都合に合わせて選択していただくとよいでしょう。

インナーバルコニーのような個性的な間取りをご検討中の方は、できるだけ施工実績がある建築会社を選んでください。長所だけでなく短所も教えてくれる建築会社なら、ベストです。